FC2ブログ

■星くず管理人×超絶変身ユカリオン 二次創作SS
 一次創作でお付き合いのある、少年・ファンタジージャンルの岡亭みゆさんの作品のキャラクターをお借りして「ユカリオン」の話を書くという、ややこしいことをやってしまいました。それただの二次創作っていいますやん。
 私が元々、岡亭さんの作品「星くず管理人」のビティさんというキャラが好きで、しまいには「彼女に叱られたいよおおおうおおお」というのをこじらせた結果、うちのうじうじヤローキャラ・榊乃優人の夢という体裁で書いてしまえ! それなら「ヒカリシ」のヒカリシさんとカゲシさんもお借りしてよろしいかしらよろしいかしら、と打診したところOKのお返事もらえましたので、彼らにもご出演いただいております。
 岡亭さんの魅力あるファンタジーの世界観を、文字で表現したらどうなるだろうか? という好奇心にも勝てませんでした……。
 岡亭さん、本当にありがとうございました!!

【火色星の夢】(二次創作)
※サークル「火色星」岡亭みゆさんの作品世界観および、作品「星くず管理人」のビティさんと「ヒカリシ」のヒカリシさん、カゲシさんをお借りしています。
 性格や世界観設定は服部の独自解釈であり、「星くず管理人」「ヒカリシ」作品本編との関係はありません。
※拙作「超絶変身ユカリオン」のキャラクター・榊乃優人が見た夢としての話
※ユカリオン本編中の設定だけど具体的にどの辺りかはご想像にお任せ
※公開範囲:ネットのみ

本文は続きからどうぞ
【火色星の夢】(仮題:ほしくずとからっぽの宝物箱)

 ふわふわとした足取り、黒いもやのかかった視界。あたり一面真っ暗闇で、光など一筋も感じられない。
 そう、ここは夢の中だ。
 夢の主――榊乃優人が夢だと自覚できたのは、自分の着ている服のせいでもあった。
 全身を包む黒のボディースーツと、拘束する紫のベルト、ひらりと風にたゆたうコート、そして、手首足首につけられた、枷と鎖。
 優人が『夢の世界』でなれる、もう一つの姿――ロスト・ワンの姿であった。
 ふと優人の心に陰りが差す。この姿になったということは、人を襲わねばならないという事だったからだ。そうしなければあの『優しい声』に褒めてもらえない、自分を必要としてもらえない……その不安に、押しつぶされそうになる。
 しかし、今この世界に、人の気配を感じる事はない。
 不思議に思いながらも、その一方で優人は、心の片隅では、安堵していた。
『優しい声』に従って力を振るう事は、変身した彼にとってえもいえぬ至福であったけれど、その一方で、意識の海に沈めた本当の自分が、嫌だと叫び続けているのも、また事実であったからだ。
 そこで優人は、はたと気がつく。
 なぜ自分はロスト・ワンに変身しているのに、意識は『優人』のままなのだろうと。
 普段ならば、本当の自分は意識の海に沈み、意識が無いはずなのだ。しかし今、肉体はロスト・ワンであるが、意識は『榊乃優人』である、という、当人にもちぐはぐな状態であった。
 混乱しつつも踏み出した先には、地面の感覚が無かった。
 突然の事に、悲鳴よりも先にひゅっと息を吸い込む。ぐらりと優人の身体が前のめりになり、あわや地面にぶつかろうとする、その瞬間だった。
 もやのかかったあたり一面の暗闇が、穴が空くように消え去った。そして代わりに現れたのは、大きな三日月と、煌々と星が輝く夜空であった。優人は逆さまに夜空に投げ入れられ、空中をたゆたった。
 一瞬、大きな三日月がこちらを『見た』気がした。しかし、月に目など、あるはずはない。まぶしい月の光は黙したまま、その明るさを主張している。
 バサバサと夜空と同じ色のコートをはためかせ空を落ちる優人は、ふと下に広がる光景を見た。
 やけに薄暗いのだ。灯りはほぼ見えず、ここはどこなのか見当もつかない。鼻をくすぐる空気も、普段知っているものと違う。所々に下降するにつれ、林が点在するのが見えた。しかも、瓦の無い家が多いのだ。何処からどう見ても、いつも見下ろすビル群とは違った光景だった。
 やがてつむじ風に乗って、優人は地上に降り立った。あたり一面ひっそりとしていて、やはり人の気配は無い。周りに立ち並ぶ建築物は明らかに日本のそれではなく、昔見たことのある、外国の児童文学の挿し絵……異国の町並みに似ている気がした。
 ちらほらと点在する、家の前にともされたランタンがほのかな光を照らし、歩くには困らなかったが、とにもかくにも人っ子一人いないのだ。
 そのうち、一際明るいランタンの家の前で立ち止まった。まるで光に誘われたように、扉を開く。不思議なことに、鍵はかけられていなかった。
「いらっしゃい。っていっても、もうお店はやってないんだけどね」
 扉を開けると、声をかけられた。まるで、自分がここにくることが分かっていたような口ぶりに驚きながらも、優人は部屋の中へ足を踏み入れた。
 部屋の中は明るく、レモンの爽やかな香りが漂っている。壁に沿って置かれた本棚には、まるで模様のような、優人には分からない文字で書かれた、豪勢な装丁の背表紙がずらりと並んでいる。別の大きな棚には、不思議な形の小瓶や、何に使うか分からない器具が所狭しと置かれたりつるされたりしているのが見えた。
 壁に立てかけられた竹箒と、とんがり帽子がかかっているのをみて、まるで魔女の部屋のようだと思った。
「師匠から聞いてる。あんたが今夜、ここに来るって」
 声の主を見やる。丸いテーブルに女性が一人、腰掛けていた。
 もっさりとした前髪で目を隠し、そばかすが印象的なその女性は、手に持ったティーカップの中身を飲み干し、机に置かれた読みかけであろう本を閉じ、優人を見やった。女性は優人を頭からつま先まで一通り眺めると、「ふうん」と、少し不思議そうな声音で呟きを漏らした。
「貴方は僕を、待っていたんですか」
「来る、って言われれば待つわ。でもまさか、子供じゃなくて、こんな大人が来るなんて思わなかったから、ちょっと驚いた。うちのお客さんには、子供が多いから。ま、いいわ。そんで、あたしに何の用なの?」
 優人は、はたと困ってしまった。
 特に用があって、ここに来た訳ではない。いつの間にかここに来ていたのだ。しかし、目の前の女性を襲って、生体エナジーを奪う、という考えも浮かばない。そもそも今の自分は、姿かたちこそロスト・ワンだが、中身は榊乃優人なのだ。
 返事が出来ず、沈黙が流れる。
「……もしかして、迷子?」
 くすくすと女性が笑い、沈黙が破れた。口元に浮かぶのは、少しだけいたずらっ子のような笑み。しかし、嫌な気はしなかった。
「そうかも、しれません。何処へ行くべきかも、どうすべきかも、分かりません」
 優人の口から、素直に言葉が漏れた。彼女には、素直に自分の気持ちを話してよい気がした。ざっくばらんで飾らない、彼女の言葉が、そんな気分にしてくれた。
「そんなの、あたしにもわかんないわ。他人の行くべき場所や、何をすべきかが分かるんだったら、逆にあたしも教えてほしいくらい」
 女性の口調はぶっきらぼうにも聞こえたが、不思議と嫌な感じはしない。
「でも、ヒントくらいは、もらったって、バチは当たらない」
 そういいながら女性は椅子から立ち上がった。軽快に歌を口ずさみながら、彼女は箪笥から筒状になった紙を取り出し、次に戸棚から小瓶を1本手に取った。筒の紙と小瓶を、優人の前に差し出した。
「これ。"模様地図"と、"勇気の金平糖"」
 地図は金色の飾りひもで括られている。小瓶の中には、青空のような、爽やかな色の金平糖が2粒入っていた。
「金平糖が少なくてごめん。ずいぶん前に封をあけちゃったから、もうそれしか無かったの。でも、1粒でも十分、効果はあるはず。地図と金平糖、あげるわ」
「僕に、ですか」
「他に誰が居るの」
 ふてくされたような女性の言葉に促され、優人はそれにふれようと腕を上げるが、鎖の鳴る鈍い音が響き、動きが止まった。それを見た優人は、鎖の意味することを思い出し、俯いた。
「僕は、何かをもらえるような人間じゃありません。何も望んではいけないんです。僕には……何も無いんです」
 本当の自分は、誰からも生きることを望まれていないのだ。母親の声が頭の中を駆け巡り、胸が苦しくなる。お前のものは何もない。お前は必要の無い存在だ。胸の内をどろりとした嫌な感情が走った、その瞬間だった。
「ああ、もう、うっとうしいなあ!」
 べちん、と頬に小さな痛みを感じた。女性の小さな手が、優人の頬をはたいたのだ。
「あのね、何も欲しくなかったら、うちになんか来られないよ。何も欲しくない人は、うちの扉を触れないもんなの。そういう魔法がかけてあるから。それとあんた、うだうだわかんないとか無いとか言ってるヒマがあったら、自分で探しに行けばいいの。見つけようとしないから、わかんないの。そういうもんなの」
 一気にまくし立てた女性は、優人に文字通り地図と金平糖を押しつけた。あっけに取られながらも、素直に受け取ってしまった。
「途中までならあたしも一緒にいけるから。星くず集めのついでよ、ついで」
 そう言いながら女性は、立てかけてあった竹箒を手に取り、壁のとんがり帽子をかぶった。その姿は本に出てくる、まさに魔女そのもので、優人はやっと、女性が魔女であると理解した。
「魔女さん、なんですね」
「それ、今更気づくこと? さ、行くわよ。夜が明ける前に」
 魔女が玄関の扉を開くと、ひゅうと、外の空気が暖かな部屋に入り込み、魔女の腰にくくられた布がひらひらと舞った。
 そして振り向き、優人を見ると、はたと思いついたように口を開いた。
「あと、あたしの名前は魔女さんじゃない。ビティよ」



 町を離れ、ビティは箒にまたがり、優人はつむじ風に乗って夜空を飛んでいた。ところどころに明るい星が輝き、広々とした夜空が気持ち良いと、優人は思った。
「師匠が扉を開いてくれるって」
「師匠?」
 ビティは大きな三日月を指さす。落ちてきたときに感じた、あの視線の正体は、正にあの三日月であったのだ。
「あの大きな月が、あたしの師匠。言ったでしょ、あんたが来ることは師匠から聞いてるって」
 そこでひと呼吸置いた後、ビティは瓶を持つ優人の手を指さした。
「金平糖を一粒、口ん中に入れて。しばらくは噛まないで。そうしないと、扉の中に入れないから」
 言われるがまま、瓶のコルクを開け、1粒取り出した。真っ青で柔らかな色……ペール・ブルーの金平糖。おずおずと薬を飲むように口に含むと、舌先にほのかに甘さが広がった。
「月に模様が見えたら、そこに飛び込んで。あたしはここまでだからね!」
 ころころと口の中で金平糖をころがしていると、不思議なことに、ぼんやりと月の表面に、四角や丸や矢印で構成された模様が浮かび上がるのが見えた。
「見えた」
 小さな優人のつぶやきに、ビティはほっとしたように、小さな微笑を浮かべた。しかしすぐに気づいたようにはっとした表情に変わると、急かすようにびしっ、と月を指さした。
「ぐずぐずしない! ほら、行くの」
「……ありがとう、ございます」
 嬉しかった。誰かが自分の為に何かをしてくれるのがこんなにも嬉しいものだとは思わなかった。そして、ビティと別れるのが名残惜しいと思っていた。もっと自分の事を見て欲しかったし、そしてビティ自身の事も知りたかった。欲する感情が胸の中で踊るように暴れ出して、前に進むことを躊躇った。なかなか体が動かず、助けを求めるようにビティを見てしまった。
 しかし口をへの字にしたビティは、優人の視線を受け流し、口を開いた。
「――あたしは途中までだって言ったわ。それに、あんたはこの世界の人間じゃないから。ちゃんと自分の世界に帰って、自分の成すべき事をしなさい」
 まるで心を見透かされたような言葉に、優人はどきりとした。そして少し恥ずかしくなったと同時に、これは怒られているのだろうかと悲しくもなった。しかし。
「ま、あんたとは、別の形でいつでも会えるんだから、心配しないの。あと、あたしの言葉って、怒ってるようにきこえるかもしれないけど、これがあたしの普通だから、そこんとこ勘違いしないで頂戴! さあ早く。夜が明けたら師匠がいなくなっちゃう」
 背中を押すようなビティの言葉で、優人は模様に向かって飛んだ。一度だけ振り返って、見上げているビティに無言のまま手を振った。ビティは小さく手を振り返してくれた。それだけで十分だった。
 口の中の、小さくなった金平糖を優しく噛んだ。しゃりしゃりと砂のようになった金平糖を飲み込む。そして優人は、模様の中へ溶け込むように入っていった。



 模様が踊る空間の中を、優人は歩いていた。
 延々と円を描く線、連なる丸や 四角や三角、縦横無尽に指す矢印、線に沿って流れる縫い糸のような点。終わらない、果てしない模様の渦、渦、渦。隙間には青々とした緑の葉っぱや蔓が現れ、強烈な草と土の匂いが鼻先をくすぐった。
(息が、出来ない……でも、凄く、魅力的だ)
 思わず指で触れたくなる衝動に駆られ、宙に浮く模様の一つに触れる。しかし、ゆらりとインクが溶けるようにして消えてしまった。ああ、と物悲しく思っていると、四散したインクがまた集まって、元の模様へと戻っていった。
 しばらく歩くと、先のほうに一際明るい光と、にじむ様な暗い影が見えた。近づいていくと、明るい光も、暗い影も、それぞれ人の形のしているのが分かった。
「やあ」
 明るい光を携えていたのは、真っ白な髪の少年だった。ぱっと光がつくような、明快な笑い方が印象的だ。
 ゆったりとした民族衣装のような白い服を身に纏い、肩に担ぐ長い杖の先には、白い星が入ったランタンと、黒い星が入ったランタンがかけられていて、まるで天秤のように揺れていた。
 そしてその隣では、黒い影を持った、真っ黒な髪の少年が黙ったままこちらを見ていた。白い少年とは違い、笑みは浮かんでいない。彼の服装は真っ白な少年と形こそ似ていたが、まるで鏡に映したかのように左右対称で、なおかつ黒だった。
 彼の手元には何もなかったが、彼の足元から這い出るような黒い影が、液体のように揺らめいているのが見える。
 優人は、明るく笑う白い少年も好ましく思ったが、それ以上に、黒い少年の無表情さと、黒い影に、妙な安心感と、親近感を抱いた。
「……多くを語る必要はない」
 黒い少年が口を開く。そして無言で白い少年へ何かを促すようにあごをしゃくる。白い少年はその態度に苦笑しつつも、杖を手に持ち、垂直に地面へと叩きつける。たん、と小気味良い音が響くと、突然優人の身体から、黒いものがざわりと現れた。
 自身の操る「かまいたち」にも似た印象を受けたが、目を凝らしてみると、それは黒い星のようなものが無数に集まっていることが分かった。
 すると、黒い星が優人の身体の周りに、踊るようにふわふわ浮き始める。そして、耳元に近づいた時、微かだが星の囁きが聞こえてきたのだった。
「何もできない」「なさけない」「あの人がにくい」「消えてしまいたい」「さみしい」……黒に見えるのは、さまざまな色が混ざっているからだということにも、やっと気がついた。
 何も無いはずの自分に、こんなにも憎しみや、悲しさや、不安が詰まっていたことに驚いた。そして、黒い星の嵐は、自分のものであることを、優人はすっかり理解することが出来た。
「これが何であるか知ったあなたは、どうしたいですか?」
 優しい白い少年の声に、優人は思わず、彼に近寄りたくなった。彼の明るい光が、この黒い星をごっそり消してくれるのではないかという、甘い考えに至ったのだ。しかし、こんなにたくさんの黒い星を持つ自分が近づいてしまったら、逆にこの、白い少年を汚し、光を消してしまう気がした。それは嫌だと優人は思った。
「……これは、自分で持って行きます」
 いっそのこと自分で抱え込んでしまえばいいのだ。それは現実の『榊乃優人』がいつもしていることと、なんら変わりはない。そもそもこの黒い星は、自分自身が生んだものなのだ。造作ないことだ、と優人は思った。
 優人の答えを聞いた白い少年は、ほんの少し複雑な笑みを浮かべ、そして黒い少年へ、少し助けてほしい、というような顔を向けた。黒い少年は小さくため息をついてから、優人へと視線を移した。
「お前は、それでいいんだな」
 念を押す、というよりは、優人の決意を推し量っているような言葉だった。それは、彼も同じように黒い星を携えているからなのだろう。
 お前にそれが扱えるのか、その覚悟があるのか。そう問われている気がした。
 俯くと、手に握ったままの小瓶が見えた。中には、あと一粒、金平糖が残っているのが見える。勇気の金平糖。優人は小瓶を握り締めると、無言のまま、黒い少年に向かって頷いた。
 すべてにおいて自信があるわけではなかった。しかし、黒い少年の周りに居る黒い星は、たいそう穏やかに見えた。彼のように、星を制御できるのなら。単純に言えば、彼に憧れを抱いたのだ。
「この黒い星も、僕の一部です」
 決意は伝わるだろうか、黒い少年の瞳を見つめる。小瓶を握り締める手に、うっすら汗がにじむ。
「そうか。なら、進め」
 黒い少年はそういうと、優人の後ろを指さした。振り向くと、そこには空間の裂け目が見えた。すると、手元の『模様地図』がまるで踊るように手から離れ、勝手に紐がほどけた。開かれた地図から、模様の矢印たちが一斉に抜け出して、裂け目を指した。見れば、あたりを漂っていた矢印も、倣うようにそれを指していた。
「なんか、大丈夫みたいだ。ね、カゲシ?」
 白い少年がぱっと笑顔を浮かべて、黒い少年を見る。カゲシと呼ばれた黒い少年は、ぷいと顔を背け「ヒカリシ、お前のそう言うところが苦手なんだよ」とつぶやくのが聞こえる。しかし、言葉とは裏腹に、背けたはずの顔には、照れくさそうな微笑が浮かんでいるのが見えた。ヒカリシと呼ばれた白い少年は、まるでそれをわかっているかのごとく、満足そうに目を細めて微笑を浮かべていた。
 お互いがお互いを理解して、心を許しているのが、よく分かった。
 優人はぺこりと会釈をし、二人に背を向ける。そして、矢印の指す方向へ歩きだした。黒い星が矢印に触れてさわさわと鳴る音に、歩調を合わせるのが楽しかった。
 そのときだった。不意に優人の背中に、小さな声が聞こえた。
「……おまえのヒカリシを探せ」
 カゲシの声であった。振り向くと、そこにはすでに、二人の姿は無くなっていた。
「僕の、ヒカリシ」
 ヒカリシのような存在が、自分にも見つかるのだろうか。そして、見やった裂け目の向こうに、ぼんやりとオレンジ色のもやが見えた。
「僕の……」
 いつの間にか優人はそれを求めて走り出していた。矢印もそれに呼応するように、ひゅんひゅんと隣を走っていく。近づけば近づくほど、もやの姿ははっきりとしていった。オレンジ色の大きなリボン、二つ縛りの髪の毛、女の子のシルエット。その顔に浮かぶ、愛らしい笑顔。
「あの子は、僕の――」
 息を切らし走る先に、思い切り手を伸ばした。つかんでいた小瓶が手からきらきらと光って滑り落ちたが、それよりも掴みたいものが、目の前にあった。
 裂け目に精一杯腕を伸ばし、指先が触れたその瞬間、裂け目からあふれでた真っ白な光が優人を包んで、意識が遠のいた。
 

 ::::


 気づいた時には、ぼろぼろのランドセルの上に顔をつっぶしていた。
 ゆっくりと顔をあげると、あたりはすっかり真っ暗で、見慣れた最終処理場には、物言わぬ廃棄物の山。当然のように、優人以外の人の気配は無かった。身じろぎをすると、胸に抱いた本の存在に気づいた。ハードカバーのファンタジー小説『火色星の音色は空に響き』
 読んでいる途中、いつの間にか眠ってしまっていたらしく、ページが開いたままだった。
「夢……」
 何か、夢を見ていたという記憶はあった。しかし、夜の生ぬるい風を頬に受けている間に、まるで消えて無くなってしまったように思い出せなかった。そもそも夢を見ていたのかも、怪しいほどだった。
(思い出せ、ない)
 記憶の中に微かに残る、欠片のようなものを捜しているのに見つからない。大切なものを一気に無くしてしまったような気分になった。どうしてそんな気分になるのかさえも、優人には分からなかった。掴みかけたものがあったような気がした。
 しかし、暫く考えた後、そもそも自分に、そんなことが出来るわけがないのだという考えに、優人は至った。
 本を閉じる時に、ふと挿絵が目に入った。三角帽子の魔女と、白い少年と黒い少年の挿絵に、ほんの少しだけ、懐かしい感覚がしたが、それが何故なのか、優人にはもう分からなかった。
 ランドセルを背負い、物悲しい気持ちと共に本を抱えて立ち上がる。優人は無意識に、本をぎゅっと、縋る様に再度抱いた。そして、暗く寂しい深夜の街へと、優人は歩き出したのだった。

 了
スポンサーサイト

コミティア108&第18回文学フリマお品書き画像

誕生日にたくさんもらった!

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿






trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。